あの人のこと、まだ忘れられないでいる。
もうとっくに忘れるべきなのに,それでも何かの拍子に思い出してしまう。
わたしといるときも、もうとっくに時間が過ぎているのに,同じ言葉を何度も何度もくりかえしていた。
ああ,この人、ほんとにブログの私のことが好きだったんだ......。
嘘ばかり綴っていたのに,ホントのことだと思っていたんだ。
その理想化している私と,現実の私、ギャップが多過ぎてなんだか怖くなった。
恋している少年の姿を見ると、とても悪いことをしていたような気がした。
言葉の魔法....とりわけあの歌詞が呪文のように効いたようだ。(注:ギロックの「サラバンド」に私がつけた歌詞のこと)http://expulsion909.blog68.fc2.com/blog-entry-471.html
わたし,それまで自分にそんな力があるとは思ってもみなかった。
嘘ばかりの日記をもう何十冊となく書いていたから、ブログに偽りの生活を書くのには慣れていた。
あの人、きょうはほんとにわたしがあのブログの主であるかどうか,確かめたくて来たのだった。
「君は......やっぱり,魔女だったんだね」
遠い所を見ながら彼は言った。
「この黒い服のせい?......これから告別式へ行きます」
ずっと前にも黒い服の私を見たはずだ。
ブログにUPした動画で。そこでわたしは黒いドレスでピアノを弾いていた。
ハ短調のソナタ。モーツァルトだけど。
私は突然に亡くなってしまったあのサイトのことも、あの人と出逢った別のサイトももう見ていなかった。前者は見ようと思っても無理だし、あの人が、実際,想像以上に怖い人だとはその頃は知る由もなかった。
結局のところ、わたしがナナさんを演じていたのは,彼がコンサートに来ることを見越してのことだった。同名の奈々さんという女性がいたし,わたしの本名はナナではなかったから。
あの人がもし仮に間違えたとしても,現実にいるナナさんは別のナナさんで、実在しなかったのだから。すべてが仮想の空間での幻なのに、本気で恋などしようなんて.....どうしてそのように思ったのか?
あの人ほど純粋に,言葉を信じる人がいただろうか?
その混じり気のない瞳は、しっかりと私の目を見つめていた。
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